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『花火に込められた祈り―夏の夜空と涅槃を想う』 小話

 思えば、今年はまだ打ち上げ花火を見ていないな、と思いながら、執筆を始めました。

 三光寺から一番近い花火大会は、光市の虹ケ浜で開催される「光花火大会」です。以前は、親族で集まり見に行っておりましたが、最近は都合が合わず、私は断念…。
 今年は3,000発もの花火が上がったそうですね。

 今年、虹ケ浜まで見に行った住職曰く、
「今回のは、これまでの花火より最後の連発が凄かった」
と、感想を話してくれました。

 打ち上げ花火は夜空いっぱいに咲き誇り、やがて静かに消えていきます。

 巨大な菊花火が畳み掛けるように打ち上がるラストは、見事なものです。

 その後の夜空は、打ち上がる前よりも深い静けさに包まれているように感じられます。

 仏教では、煩悩や執着の火が消えた、安らかな境地を「涅槃(ねはん)1」と呼びます。

 花火のあとの静寂は、まるで執着を手放した先に広がる、穏やかな心の世界を映しているように思えるのです。

 そこに広がる夜空は、単なる暗闇ではありません。花火によって感動し、励まされ、元気づけられた心には、それまでよりずっと明るい夜空が広がっているはずです。

 花火が上がる前の空、
 上がった後の空、
 同じ空のはずなのに、心が見せる空はまるで違って見えるのです。

 花火は一瞬で消えてしまいます。しかし、その感動や大切な人と見上げた記憶は心に残り続けます。同じように、亡き人も姿こそ見えなくなっても、私たちの心の中で温かな光となり、見守ってくださっているのではないでしょうか。

 日本の花火大会の起源の一つとして、江戸中期、慰霊と悪疫退散を願って開かれた「両国の川開き2が知られています

 夏の夜空を彩る花火には、昔から人々の祈りが込められていました。

 夏の夜空を見上げるひとときが、大切な人を偲び、今ある命とあらゆる御縁に感謝する時間となれば、それもまた、夜空に託された祈りなのかもしれません。

合掌


  1. 「涅槃(ねはん)」について
    「涅槃」とは、仏教において、煩悩の火が消え、苦しみから解放された安らかな境地をいいます。もともとはサンスクリット語の「ニルヴァーナ(nirvāṇa)」に由来する言葉で、「吹き消す」「消える」といった意味があります。 ↩︎
  2. 「両国の川開き」について
    現在の隅田川花火大会につながる「両国の川開き」は、享保18年(1733)に始まったとされています。前年の大飢饉や疫病による犠牲者の慰霊と悪疫退散を祈って行われた水神祭に続き、両国橋周辺で花火が打ち上げられたことが、その由来とされています。 ↩︎

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